BUTI-BBS~幻想掲示板~ 94509


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1:利久 :

2011/02/21 (Mon) 02:50:21

マジで成功させたい。
4回やって全部ミスってるから、5度目の正直!!
変な方向に曲げるのだけはやめて!!


ルールは特になし。
書き方は自由だし、連投もアリ
挿絵描いてくれてもいいんだよ。はい。
被った時は先に投稿した方の優先で
挿絵ある場合はそっち優先
あと安価で繋げてね>>1って感じで

まず、話を考えよう。なんかあったら言ってみて

2:アリア :

2011/02/21 (Mon) 10:55:04

ジャンル(主軸)の指定を求む。右は作品の例

1.恋愛 とらドラ!
2.異世界ファンタジー キノの旅
3.現代ファンタジー 化物語
4.学園 涼宮ハルヒの憂鬱
5.ホラー・オカルト 断章のグリム
6.ミステリー ひぐらしのなく頃に
7.アクション ストライクウィッチーズ
8.SF 銀河英雄伝説


とりあえずある程度のジャンルは選択肢にあるので、まずこの中からジャンルを決めましょう

ジャンルが決まればストーリーは立てやすい

あと、名前は漢字か横文字か、世界観などを決めておくといいと思います。


んで、僕の提供は……笑うなよ

<学園>
概要:教科の擬人化
良い点:発想がありふれているため、キャラの設定はある程度作りやすい
悪い点:もともとが人間じゃないので、人によってイメージが違う。そのため1つのキャラに固定しにくい。
備考:なんとまあチープな設定か……


<学園>
概要:それぞれの感性が秀でた生徒たちが集まる“感性部”を舞台にしたもの。
良い点:キャラ立ちは特に問題なし。←前に書いてたから。
悪い点:作者が変な終わり方で中断しているのでリメイクの可能性もある。
備考:以前僕が執筆していたもの。これもなんともチープ

こんな感じかな?

ダメだ発想がわいてこない……。orz
アイデアでき次第投稿させていただきます

では長文失礼しました。
3:利久 :

2011/02/21 (Mon) 14:06:04

>>2まぁそれは多数決とかでいいよ
もちろんりくはファンタジーを推すが
4:アリア :

2011/02/21 (Mon) 14:42:20

正直、僕もファンタジーを押しますねwww
5:利久 :

2011/02/21 (Mon) 15:12:33

>>4
これはファンタジーになる流れだなwww
6:利久◆.5cwhSh6Hk :

2011/03/01 (Tue) 13:38:13

考えることがゲーム板と似てなくもないので、コッチもあげ。
まぁ、ゆっくりでもいいから進もうじゃまいか
7:利久◆.5cwhSh6Hk :

2011/09/17 (Sat) 14:02:50

オレの名前は田幡元亀。
16歳の高校1年生さ
こんなオレだが実はある特殊な才能を持っている。
それは・・・・・・
8:アリア :

2011/10/13 (Thu) 12:46:06

>>7

「元亀、早くしなさい。遅刻するわよ」

おっと、時間みたいだ。この話はまた今度。

鞄を持ち、颯爽と家から出ていく。もちろん朝食は食べない。

それが俺スタイル。
9:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2011/10/22 (Sat) 21:01:42

>>8

 いつも通りの通学路を走り抜ける。
 
 なんでかって?
 
 そんなの遅刻したくないからに決まってるだろ。
 
 1年ほど前に購入した携帯電話を開き時間を見る。

「やっべ」

 このままだと完全に遅刻だ。

 もっと早く走らないと……。

 もっと俺に力を!

 なんて願っても早くなるわけがない。変な妄想は置いといて通学路を走り出す。

 こ、この曲がり角を曲がれば学校だ。時間は――このペースなら問題ない。
10:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2011/11/02 (Wed) 12:13:57

>>9

 そういえば、遅刻しそうな時に曲がり角であの子とごっつんこ、て話をよく聞くよな。いや、別に期待はしてない。期待したって理想は理想、現実は現実なんだから。

 無意味なことを考えながら曲がり角を曲がる。

 ほら、何もない。あくまで理想だよな。さて、頑張って走りますか。

 学校は目と鼻の先。全力で走れば、遅刻にはならない。

 次の朝に来るであろう筋肉痛を迎える準備もなく、俺は全力疾走した。

 早い、早いよ!

 自分でも予想しないスピードが出た。

 これなら大丈夫だ――。

 そんな考えが頭をよぎった瞬間、俺は前に勢いよく転んだ。いや何かすごいものに押された。
11:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2011/11/02 (Wed) 12:14:37

>>10

「え……?」

 なんだろうこの素晴らしい重量感は――なつかしい。

 そうだ昔、近所のトシ君と遊んだとき彼の自転車の下敷きにされたんだった。ただ、今俺の背中にある重たい何かは、その時の比にならないくらい重い。

 上半身が動かせないので首から上だけを動かして、正体を見る。

 目の前に思春期男子ならだれもが憧れる秘境が、ない。あるのは今にも俺の顔面を踏んでやろうとしている靴の裏側だけだ。

「ちょ、待ってく――」

 遅刻した俺の顔には見事な靴裏の型が付いていた。これで今日の俺はクラスの笑われ者だ。

 なぁ、お願いだ。誰か俺の心の涙を拭いてくれ。

 教師には怒られ、クラス中から笑われた。

 担任の山田先生よ。お願いだ。遅刻した俺を怒るのは構わない。でも半笑いで怒らないでくれ。中途半端だから結構傷ついたじゃないか。

 自分の席ですねる俺に声をかけてくれたのは、ほかの誰でもない。そう、中村君だ。彼は、昨日俺の消しゴムを拾ってくれたんだ。それから俺たちは仲良しさ。

「その靴跡は、ウケ狙い?」

 前言撤回だ。

 そうだよな。消しゴム拾ってくれただけの人が俺のことなんか慰めてくれないもんな。

 いや、中村君よ。君が悪いんじゃない。君のことをいい人だと言った、あの金子が悪いんだ。そうだ、そうに違いない。
 
12:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/04 (Fri) 00:51:07

>>11

 1時間目の授業が終わってすぐに、金子の席へと向かう。

「おい、どういうことだ」

「何が?」

 この野郎、白を切るつもりか。

「俺の隣に座っている中村君だよ。あいつ本当にいいやつなのか?」

 金子は不思議そうにしてやがる。それも目が笑ってやがる。

 俺よりも女子に人気あるからって調子に乗るなよ。

 お前は見た目がぬいぐるみっぽいから可愛がられているだけだ。早く気付け。そして絶望しろ。

「俺の顔見て『それ、ウケ狙い?』って言ったぞ」

「いや、誰だってそう思うよ。そんなに綺麗な靴あとは滅多に見れないよ」

 こいつ――。

 くそっ、何も言い返せない。

 教室に入る前にトイレで自分の顔を見たが、確かに見事な出来だった。これなら新聞の4面くらいになら載れるって思ったからな。

「なぁ、あいつ本当にいいやつなのか?」

 気弱な俺の一面がちょっぴり出てしまったぜ。気にするな俺。

「うん。それは確かだよ」

 仕方ない。俺と彼とはまだ消しゴム的な関係しか持ってないんだ。

 ん? 消しゴム的関係って何だ?

「なぁ金子」

「何?」

「消しゴム的関係ってなんなんだ?」

 何言ってんだ俺。どうしたんだ俺。自分を見失ったのか俺。

 金子が変態を見るような目でこっちを見ているぞ。

 やばい、このままじゃ病院に連れてかれちまう。

「ど、どうしたんだそんな顔して」

 さすがにひきつった笑顔での発言はまずかったのか、全然表情が変わらない。

「病院、行こうか」

 金子さんの顔が真面目になりました。ついでに、俺の人生終了しそうです。

「嫌だよ」

 そうだ、ここは強気になるんだ。そうすればこいつの心も折れるだろう。俺はノーマルな人間だ。

「冗談だよ。何真面目になってんの」

 こいつ、俺のこと嫌いなのか?
13:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/06 (Sun) 17:13:38

>>12

「おい――」

 金子への呼びかけは休み時間の終わりを告げるチャイムに遮られた。

 仕方ない今回はこれくらいで、いやいいや。

 2時間目の数学は非常に眠たい。この教師は催眠魔法でも使えるのか? もしそんなファンタジックな世界なら是非お相手していただきたいね。もちろん俺は勇者ね。

 それにしてもさっきの金子の態度は酷くないか? 今までにこんなことは……あったな。それもかなりの数。なら仕方ない。

 何よりも問題なのは、俺が嫌われているかどうかってことだな。別に嫌われてるからってどうってことはないけど。一応休み時間に訊いてみるか。

 授業とは別のこと考えると案外授業ってのは早く終わるもんだな。新しい発見だ。

 誰かに尋ねる前に、トイレに行っとこう。

 目の前を歩く見知った後ろ姿はもしや――。そいつは俺と同じ目的地へ向かっていた。そう、女子禁制の男のたまり場、男子トイレだ!

 いや、別に強調する意味はないんだけどね。まあご愛敬ってことで。

 目の前を歩いていた男は、個室に入った。あいつがそうするのはいつものことだから特別気にすることはない。

「よう」

 声をかけてきたのは同じクラスの棚辺だ。

「ああ、先に来てたんだな」

 こいつは、とりあえず用をたすのが非常に遅い。これはこいつのステータスだから仕方ないけどな。あと顔が中々よろしい。

 棚辺と一緒にトイレへ行くと長いのであまり一緒には来ない。というよりつるんでトイレ行くってどうよ。俺もよくやってるけどさ。

 先に教室へ戻る。
14:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2011/11/06 (Sun) 17:18:42

>>13

 トイレに行くと休み時間が短くなる気がする。まあ事実減ってるんだろうけど、生理現象だし仕方ないよな。

 教室はいつものように騒がしい。高校2年という時期は中だるみがあるからな。俺はもちろんのこと、みんな中学2年の時に体験済みだろう。
 
 中だるみの恐ろしさは、その学年終了時から次の学年開始時に襲ってくる。これだけは全国の学生の大半が体験しただろう。

 今もその中だるみが進行中だ。だれの仕業なんだかな。気にしても仕方ない。

 俺は嫌われてるのか。正直どうでもよくなってきた。もう休み時間は少ないしな。昼休みでいいか。

 授業が始まり、時間が意味もなく過ぎていく。そんなこと今まで気にしたことはないが、考えてみれば無駄な時間だと思う。

 3時間目は、寝たからすぐに過ぎてしまった。休み時間には次の授業の課題をやった。

 4時間目は、もう意味わかんない。だって古文だもの。教師は、なんかいろんな意味ですごいしな。だから適当に聞き流す。寝たらうるさいから。

 昼休み。それは一日がんばっていく学生たちの憩いの時間である。そんなこと誰かが言ってた気がする。ああ、今は引っ越してどこに行ったかわからないトシ君だ。

 そんな昼休みに俺は食堂に行く。
15:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/14 (Mon) 00:52:23

>>14

 食堂にはいつものように全学年と少しの教師もいて活気にあふれている、はずだった。

「な、なんだ?」

 目の前に活気など微塵も見当たらなかった。みんな黙りこくって黙々と食事している。

 昼食はみんなでワイワイ食べたい派の俺にはこの空間は苦痛以外の何物でもない。


「仕方ないか」

 今日の朝、言いそびれた俺の才能。それは、一定距離にいる人間の思考を俺と似せる才能だ。ただこの才能は"才能"というよりは"能力"と言ったほうがいいと思う。

 少し集中して力を解き放つ。

 しばらくするとみんなが元気を取り戻した。食堂中に活気が戻った。しかし俺には気になることがある。

 この才能の問題点。それは、一定の距離内にいる人間は絶対に逃れられないこと。それと、俺の思考に似せているせいで、みんなのテンションが異常に高くなる。

 例えば、いつも食堂の端で1人で食事しているちょっぴり可愛いあの子なんて隣の男子に笑顔で話しかけてる。くそ、俺が狙ってたのに。

「ああ、無駄撃ちだったかも」

 そしてもう一つ。この才能は一日2回しか使えない。基本的にそれで問題はないが、なんか損した気になる。

 俺は何事もなかったかのようにいつもの面子が座るテーブルへ向かった。
16:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2011/11/20 (Sun) 00:51:03

>>15

 棚辺、金子、そして最近は中村君、この三人と昼を過ごしている。

 当然、3人とも俺の才能のことは知らない。

 いつものように取り留めのない会話をしている。他のクラスのこととか、女について。俺を含めたこの4人はそれなりに顔が広い。棚辺はいい顔仲間がいらっしゃるし、金子は主人に仕える同じような従者たちと仲がいい。中村君は、普通の友人が多いな。おかげで一般的な話も聞ける。俺は……まぁいいか。

「なぁ知ってるか?」

 内容も言わないで訊いてくる。棚辺、お前の悪い癖だよ。慣れてるから何も言わないけど。

「どうしたよ」

 仕方なく俺が返してやる。

「転校生が来たんだって」

「ホントか?」

「さあ」

 なんで不確かな情報を俺に教えるんだよ。こいつ馬鹿じゃないのか?

 金子と中村君も俺と同じ気持ちのようだ。棚辺を見下すようにしている。

「お、おい。そんな目で見るなよ。俺も3組のやつから聞いただけだからよく知らないんだよ」

 必死そうなこいつを見ているのはおもしろいが、いい顔してるやつは苦手だから見つめるのはなし。

「で、その転校生はどこのクラス?」

 金子が身を乗り出して訊いた。そこまで食い付く話題か?

「ああ、2組だってさ」

 2組か。うん、放課後行こう。うちのクラスは終礼早いし。逆に2組は長いからな。

 部活に入っていない俺に放課後の楽しみなんてないようなものだった。

 ただ問題は転校生が男か女かだ。男ならスルー、女ならお友達だな。

 そんなことを考えて午後の授業を受ける。いい出会いが待ってる、そんな期待をしているんだ。でも心の片隅にはこう思っている俺もいる。

 理想は理想、現実は現実――。

 わかっているさ。だけどさ、信じたいだろ? 運命ってやつを、さ。

 こんなこと考えてたからかな。5時間目、6時間目と連続で怒られた。いや、確かに教科書に落書きはしてたよ。でも怒ることないじゃないか。なんだよ、「俺よりもうまい絵を書くな」って。別にうまくないんだけど。

 6時間目はとりあえず怒られた。さすがにグラウンドの女子を見ていたのはまずかったか。先生も少し時間を開けてチラ見してたじゃないか。せっかくのストレッチが見れなかったじゃないか。

 そう言えば、前に金子に言われたっけ。

 "煩悩の塊"って……。

 誉め言葉じゃないよな。

 忘れよう。昔のことは思い出したくない。

 そんなこんなで全授業は終了した。これから重要なイベントが始まる。
17:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/25 (Fri) 01:00:50

>>16


 2組の前で待ち伏せる。いや別に隠れるほどのことじゃないんだけれども。

 教室が騒がしくなってきた。どうやら終礼が終わるようだ。

 扉が勢いよく開いた。

 よし、転校生の詳細を……あれ?

 今、俺の前を何かが通り過ぎた気がするんだが、気のせいか。

「しまった。逃げられた」

 教室から男子生徒の声が聞こえた。

「何が逃げたんだ?」

 知り合いだったので訊いてみる。

「ああ、マスターか。いや今日転校してきた女子が――」

 俺は"女子"という単語を聞いた瞬間、目の前を通り過ぎた風のような存在の向かった方向に走り出した。

 誰だってそうさ。欲望には勝てないものだ。よく考えてみろこのチャンスをものにできなかったら、俺は1つの出会いを失くすかもしれないんだぞ。そんなのもったいないだろ!

 筋肉痛の兆候が出ている体に鞭打って俺は走る。廊下を走り抜け、階段を飛び降りる。人間の体は簡単に壊れたりなんかしない。そう信じたい。

 俺は軋む体に限界を感じ始めた。その時、前方25メートルにターゲットを発見した。

 もう、体なんてどうでもいい。この欲望が満たされるなら。

 俺は飢えている"女"に!

 猛スピードで近づき、話しかける。

「ねぇ、君転校せ――」

 質問が終わる前にターゲットから強烈な蹴りが俺の顔面に飛んできた。

 俺の体は意識とともに吹っ飛んだ。通常の俺ならば。体はその場にとどまり、意識も掴み取った。

「……いだよね?」

 相手は驚いているようだった。それでも俺の問いに首を縦に振ってこたえてくれた。

 それを見て俺は、意識を手放した。
18:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/25 (Fri) 01:01:45

>>17


 目が覚めると、目の前に白い天井が見えた。

 起き上がり、周りを見たところ保健室のようだ。つまり誰かがここに俺を運んでくれたのだろう。

「ということは……」

 俺はベットを囲むカーテンを勢いよく開いた。その向こうにさっきの転校生がいると信じた。

 ただ現実は甘くなかった。むしろ残酷だ。

 カーテンの向こうには保険医しかいなかった。

「起きたか。じゃあ帰れ」

 いつもながら酷い保険医だ。

 この学校で性格の悪い大人でトップクラスだな。間違いない。

「誰がここに?」

 一番気になることを聞いておく。場合によっては発展があるかもしれない。

「金子」

 発展なんてありゃしない。あったのは嫌がらせに近いんじゃないかと思える金子のいらぬ善意だけだ。

「それはそれは心配してたぞ。恋人みたいに」

「やめろ。気持ち悪い」

「冗談だよ」

 ホントに困った保険医だよ。

「早く出て行け。仕事を終わらせないといけない」

 よく働くな。性格の悪ささえなければいいやつなんだがな。

 保健室勤務の保険医、高枝晶。性格は悪いが見た目はいい。性別は女。短い黒髪にスレンダーな体系、ラフな性格。女子からの人気は異常。男子からも人気がある。

 ちなみに性格のせいで現在、4回見合いに失敗中。

「ご苦労なことで。じゃあな」

「ああ」

 本当に無愛想だな。そこがいいのだろうか、あまり知られていないが高枝保険医は学内で一番バレンタインチョコを貰っている。どうでもいいな。

 保健室を出て、下駄箱で靴を履き替える。履き替える途中で誰かがこっちに来る音が聞こえた。どうせ野球部だろ。

「はぁ、はぁ……」

 予想はかなり外れていた。

 目の前に現れたのは、先ほど俺を蹴った転校生だった。

「やっと、見つけた……!」

19:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/27 (Sun) 19:53:58

>>18

 よし。まずは落ち着こう。

 なぜ蹴られた俺が探されているのか。思い浮かぶのは、

 1.謝りたかった。
 2.俺という存在の尊さに気付いた。
 3.殺し損ねないようにととどめを刺しに来た。

 この3つだな。

 正直な話、3だけは嫌だ。まだ死にたくない。

 そうだ、ここは話し合うことが大切だ。

「なんで俺を探してたの?」

 し、しまった。単刀直入に聞いてしまった。

「いや、謝ろうと思ったら、もうあそこにいなかったから……」

 よかった。殺されずに済む。しかし、なんていい子なんだ。

「いや、気にしないでよ。保健室で見てもらって、なんともないって言われてるから」

「よかった」

 笑った。それも少し恥ずかしそうに。今日はいい日だなぁ。

 今気付いたが、この転校生はなかなか可愛い。セミロングの艶々しい髪、大きな目、すらりとした手足……たまらん! おっと、そんなことを考えていては嫌われるぞ、俺。

「ねぇ、一緒に帰らない?」

 俺は彼女からの甘い誘いに応じた。

「いいよ」

 このときの俺は一際輝いていた。我ながらそう思う。
 
20:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/27 (Sun) 19:57:33

>>19

 今日という日をこれほどまでに喜んだことはない。こんなに可愛い女の子と一緒に帰れるなんて、夢のようだ。

「ねぇ」

 自転車を押しながら歩く彼女が俺に問いかける。

「何?」

「そういえば名前、知らない」

 ああ、名前ね。そうだった、いろんなことがありすぎて忘れてた。名前がなければ俺のことを忘れてしまうかもしれない。

「俺は、田幡元亀。4組だから気軽に遊びに来てよ」

 よし、悪くない自己紹介だ。悪い印象は持たないだろう。

 彼女は、ニッと笑って俺を見た。見事な笑顔だ。思わず愛の告白をしてしまうかと思った。

「私は、立花汐織っていうの。よろしくね」

 汐織ちゃん、か。いい名前だなぁ。可愛い。さらに好きになりそうだ。

 こんないい出会いをした日なんだから食事でも、と行きたいところだが、いかんせん金がない。仕方ない、今日の食事はなしだな。

 しばらく沈黙が続いた。聞こえてくるのは度々通る車の音と汐織ちゃんが押している自転車の音だけだ。

「あ、私こっちだから」

 沈黙を破った汐織ちゃんは交差点で俺と90度違う方向を向いていた。
21:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/27 (Sun) 19:58:14

>>20


「そっか、じゃあまた明日」

「今日はありがとう」

 なんで"ありがとう"なんて言われたんだ? まあ可愛かったからいいか。なんだか今日の俺、"可愛い"ってかなり言ってるよな。今日の分は明日で埋め合わせよう。明日は"可愛い"を極力使わないようにしよう。

 しばらく歩きながらそんなことを考えていた。

 俺の帰る道をまっすぐ行くとすぐ信号があるのだが、その信号が赤だった。

「はぁ、かったるい」

 女の子といなくなって少しテンションが下がった。

「田幡くーんっ!」

 後ろから大きな声で呼ばれた。振り向くと、さっきの場所で汐織ちゃんが手を振っていた。

「まった明日っー!」

 俺は恥ずかしがりながらも手を振り返した。それを見た汐織ちゃんはニコニコしながら自転車にまたがり帰って行った。

 しばらくその姿が見えなくなるまで俺は見届けた。彼女の乗る自転車に懐かしさを感じながら。

 
22:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/29 (Tue) 01:00:28

>>21

 翌日、俺は気分良く目覚めた。

「さて、今日も元気に行きますかっ」

 今日はちゃんと起きた。遅刻するような時間じゃない。

 洗面所で顔を洗って、部屋で着替える。そのあと鞄を持って1階に下りて朝食を取る。今日は食パンにハムエッグだ。

 朝食を食べ終わった俺は、食器を流しにおいて玄関へ向かった。

 学校指定の革靴を履きこなし、玄関の扉を勢いよく開けた。

「いやぁ、ゆっくりと登校することがこんなに気持ちいなんて」

 昨日のツライ登校に比べたら今日はなんて幸せなんだろう。

 筋肉痛はなかったことにしたいが、今も俺の体をむしばんでいる。

 汐織ちゃんとの楽しい日常を頭の中に描きながら歩く。

 昨日、汐織ちゃんが手を振ってくれた信号も通過した。

 別に早く出たわけではないが、あたりに制服を着た人間が見当たらない。

 1人も生徒を見かけないまま、通学路最後の曲がり角を曲がり切った。

 いつもの学校が見えるはずだった。しかし信じられない光景が俺の目に写った

「な、何だこれ……」

 目前に見据えた学校は半分崩壊していた。

 急いで学校まで走った。

 校門をくぐるとさらに被害の大きさを知った。

 グラウンドは何かに抉られたかのように原形をとどめておらず、校舎は窓ガラスが割れて右側の3、4階がなくなっていた。
23:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/29 (Tue) 01:01:26

>>22


 俺は愕然とした。いつも通っているはずの学校が崩壊したことに関してもだが、なぜこんなことになっていることに気付かない自分に驚いていた。

「――っ」

 地面がありえないほど振動した。

 筋肉痛の俺の脚はその揺れに耐えきれず俺は地面に尻をついた。

 外は大丈夫なのかと振り向いた。しかし、何事もなかったかのように日常が続いていた。

 いったい何が起きてるんだ?

 そんな疑問がふと頭をよぎった時だった。

 また地響きを感じた。今回の者はさっきのよりも大きい。

 音のした方向に顔を向けると、土煙が上がっていた。

 土煙の中に2つの人影を見つけた。

 片方がもう片方にものすごい勢いで接近して攻撃した、と思う。早すぎて目で追えなかった。

 攻撃された人物がこちらに飛んできた。

「う、うわっ」

 見知らぬ青年だ。体中が血だらけになっている。息も荒くひどく疲弊していた。

「もの足りないよ。本当に、全くもってもの足りない」

 攻撃した人物が姿を現した。

 背格好は俺とほぼ同じだ。顔つきも高校生くらいだろう。ただ目が赤い。それも黒みがかった赤だ。

「ん? キミは……」

 赤眼の少年が俺に視線を向けた。そしてしばらくすると「ふっ」と笑った。

「なつかしいなぁ。君は僕を見て何も感じないのかな?」

 怖い。ただその感情だけが俺の体を包んでいた。

「その様子だと、そんな状況でもなさそうだね。まあいい。そのうち思い出すさ」

 そう言い残し、赤眼の少年は校門の外へと歩いていき、そして見えなくなった。
24:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/11/29 (Tue) 01:02:09

>>23

 俺は、足下に倒れている青年に向き直った。

「だ、大丈夫?」

 問いかけると、目を少し開けた。

「君は、あいつの知り合いか?」

 首を横に振れなかった。正直に言えば知らない。でも何か懐かしい気もした。

 何の反応も示さない俺を見て青年は、

「構わないさ。それよりこれ……」

 といって懐から金属でできている円盤を俺に渡した。

「なんだよ、これ」

 怖かったが受け取ってしまった。すると何もなかった金属の円盤に模様が現れた。

「君のほうがこいつを持つべきだな。使い方は――に聞いてくれ」

 そういって青年は目を閉じた。次の瞬間、青年は姿を消した。

 ザッ。

 土を蹴った音が後ろから聞こえた。恐る恐る振り返ると、そこには――。

 性格の悪い保険医が立っていた。
25:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/12/29 (Thu) 02:26:26

>>24


「なんだ、お前か」

 いきなり現れてそんなセリフを吐くとはやっぱり性格の悪さが出ている。

「思ってた反応と違うんだが」

「そうか、悪いな」

 俺の言うことはサラリと流してくれる。それに謝ってほしいだなんて思ってない。

「なんでアンタがここにいるのさ」

「答える必要はないだろ?」

 まあその通りなんだけどな。でもやっぱりこんな状況なんだから知りたいと思うのが普通かと、なんて言いたいが絶対に相手にされないのでやめておく。

 保険医はあたりを見回した。

「……すごいな」

 感嘆の言葉が出るとこからして、やっぱり変な人間だと思う。

「なぁ、学校はどうなるんだ?」

 周りを見てみればわかるが、こんな状態でまともに学校が動くはずがない。

 俺の無意味な質問に保険医は驚きの答えを返した。

「元に戻るさ。ちょっと来い」

 そう言って制服の襟を引っ張った。

「ちょ――」

 女とは思えない力で俺は保険医に引っ張られていった。腰が抜けていた。言い訳が許されるならそう口にするよ。
26:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2011/12/29 (Thu) 02:28:14

>>25

 校門まで引きずられた俺は首が締まりそうで軽く意識を失いかけていた。

「よし、見てろ」

 保険医がそう言うと学校が徐々に元の形を取り戻し始めていた。

 先ほどまでの信じられない光景は5分ほどでいつもの姿を取り戻した。

 俺の開いた口が閉まらないままでいると後ろから生徒たちの声が聞こえてきた。

 その声で我に返った俺は時計を見た。

「嘘……」

 信じられないことに時計は事件が起こる前どころか俺が家を出たくらいの時間を示していた。

「現実だよ。たぶんお前、家出てから学校に来るまで誰とも会ってないだろ」

 保険医の言葉は真実を語っていた。

 確かに家から学校に至るまで一度も人を見ていない。

「だったらなんだよ」

「図星か。まあ当たり前だがな」

 何が当たり前なんだ。そう言おうとした瞬間、保険医が口をはさんだ。

「終礼後に保健室に来い。説明はその時にしてやる」

 そう言って自然に学校へと向かって行った。

 保健室に来い、か。あんたに言われてなきゃ良い台詞なんだけどな。そんなことを考えながら俺も学校へと歩を進めた。
27:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/01/03 (Tue) 01:57:56

>>26


 何かが起きていた。それを知っているのはこの教室の中では俺だけで、周りのやつらは何も知らない。
 
 気にしても仕方がないことだけど気持ちが悪いのも事実だ。

 そんな気持ち悪さを感じたままいつものように一日を過ごした。

 終礼が終わり、クラスメイトたちが教室から出ていく。俺もそれに続いて教室から離れる。

 向かうは保健室。状況がいまいち掴めなかったから保険医の言うことに従う。そうでなければ俺があんなに性格の悪い女の言うことなんて聞くものか。

 ホント、汐織ちゃんに誘われてるんだったら終礼後じゃなくても飛んでいくのになぁ。

 現実ってやつは思っている以上に厳しいんだな。

 静かな保健室の扉を開ける。

「おう、来たか」

 保険医は机に向かい背中を向けたままだ。

 失礼なことだ。これだから嫁の貰い手がいないんだ。きっとそうに違いない。

「何か変なこと考えてないか?」

 軽く睨みを利かせて俺を見てきた。

「そんなことはない」

 焦って変な言い方になっちまったじゃないか。こいつ心が読めるのか?

 いや、そんな人間いるはずがない。偶然だ偶然。

「で、朝のあれは何だったんだよ」

「そう焦るな」

 保険医はそう言うと机の上にあったカップを持ち上げ、中のコーヒーを口に入れた。

 なんでこうも優雅に過ごしていられるんだろ。

「優雅に生きるコツは、自分の生き方を知ることだ」

 完全に心を読んでますね。疑う余地も見つからないよ。

「つまりはそういうことだ」

「はい?」

 意味がわからない。いつも変な人だけど今回は比にならないほど変だ。

「話が飛びすぎたか。悪いな」

 理解力の乏しい俺にはこの人の話は理解できないな。

28:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/01/03 (Tue) 01:58:58

>>27


「かいつまんで説明するとだな、私は普通じゃないんだ」

「そんなことは言われなくても分かってるんだが」

 明らかに一般人とは違うだろ。性格とか。

「そういう話してるんじゃないんだ」

「ならどういう話だよ」

「さっきから少しずつではあるが私がお前の心を読んで話していることが分かってるだろ?」

「ま、まあ」

「相変わらず素直になれない男だな」

 昔からの馴染みだからとはいえ学校でそういうことを言われるのは慣れないな。そう言えば昔はこんなに変じゃなかった気がする。こうなんというか頼りがいのあるお姉さんみたいな感じで……。

「――っ」

 ふと保険医を見たら、ニヤニヤしていた。

「懐かしいなぁ」

 忘れてた。こいつの前じゃ心の声も意味ないんだった。

「あの頃は私にべったりだったよなぁ」

「そうだっけか?」

「照れるな照れるな」

「照れてない」

 困った。完全に本題からそれている。

 そう思った瞬間、保険医は何か思い出したような顔をした。

「悪い悪い、忘れてた」

 保険医はそう言って俺の横を通り過ぎて入ってきた扉を開けた。

 なんとそこには汐織ちゃんがいた。

 俺は数秒驚いていた。なんでこんなところに彼女がいるのか。考えようとしても驚いている俺の頭は思考停止状態の一歩手前だ。何一つ頭が働かない。

 しばらく経つと我に戻った。そしてすぐに保険医を見ると悪魔もびっくりするほどの悪い笑顔をしていた。やっぱり性格悪い女だよ。
29:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/01/03 (Tue) 23:09:52

>>28

「ほら入れ」

 保険医が汐織ちゃんをせかす。

「は、はい」

 汐織ちゃんは保険医の言うとおりに保健室の中に入った。

 俺は同じ場所に立ったままだった。驚きすぎて動けない。なんてこった。さっきの会話を聞かれていて恥ずかしいのかもしれない。しかし、俺はそんなことを考えていられるほど落ち着いてはいなかった。

「おいおい、そんなところで立ってたら話が進まないだろう」

 保険医の言葉に俺は振り向いた。そこには椅子に座った汐織ちゃんがいた。

「あ、こんにちは」

 ぎこちない挨拶が可愛いのは分かってる。けど今はそれに反応している場合じゃない。今はこの性格の悪い女から話を聞くほうが先だ。

 俺はやっと落ち着いたので汐織ちゃんと同じように保健室にある椅子に腰かけた。

「さっきの続きを話してくれよ」

 予想した反応と違っていておもしろくないのか保険医の表情に先ほどの笑顔はなかった。
 
30:たばっち :

2012/05/20 (Sun) 01:09:08

>>29
そう。何を隠そう保険医は男性にしか興味がなかったのである。
性同一性障害。すなわちホモ。
そんなこともつゆしらず、彼女は保険医に話しかける。
「俺の名前は・・・穴掘りシモンだっ!!」
ピクッ
保険医は思わず反応してしまう。
まさか彼女は女ではなくおとこなのではないか、という疑問が保険医の中で浮かんだ。
しかしそうだとしたらなぜ、どのような理由で女の格好をしているのかがわからない。
そのとき保険医は気づいた。もしかしたら彼女、いや彼もまた俺と一緒でホモではないのかと。
そうすれば全ての事柄に説明が付く。
保険医は勇気を振り絞り“彼”かも知れない人物に尋ねた。
「Are you HOMO??」

「I am a gay.
However, why did you turn out that I am a gay as for it??
31:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/07/15 (Sun) 23:53:18

>>30

 保険医の顔には恍惚の笑みが浮かんでいた。

「おい、何ニヤついてるんだよ」

 俺は保険医の表情がたまらなく気に入らなかったので注意を入れた。

「……あ゛? 人の趣味邪魔する気か、オイ?」
 
 なんで、逆切れなんだよ。話の途中で変な顔するアンタが全面的に悪いんだろうが。

「……?」
 
 汐織ちゃんは困惑している。純粋であろう彼女には、この性根の腐った女の奇妙な趣味をいる必要はないだろう。いや、あってはいけない。

「早く話せよ」

「ちっ」

 あからさまな舌打ちしやがって。この保険医は、妄想癖――それも男同士のくんずほぐれつを扱うタイプのモノだ。つまり、最近流行りの腐女子ってやつだ。女子という表現には多少違和感があるが、まあいいだろう。

「気が乗らないけど、そんなに言うなら話してやるよ」

 なんでそんなに上からなんだよ。

「だけどその前に、なんで立花がここにいるのかを説明しておくよ」

 確かに、朝の話で俺を呼び出してるのにどうして汐織ちゃんが……? ん? 朝の話をするために呼び出した……え、じゃあ、もしかして――。

「そ、そのもしかしてだ」

「はい?」

 汐織ちゃんは、今もまだ困惑の表情。そんなことは気にも留めず、保険医はすかした顔でこう言った。

「立花もあの光景を目の当たりにしていたんだよ」

「べ、別にちょっと見てただけだから」

「それが問題なんだよ」

「どういうことだ」

 モジモジしている汐織ちゃんは置いておいて俺は保険医を睨む。

「あの破壊は、一般人には見えないのよね、これが」

 はい? 言っている意味がよくわかりませんが。

「つまり、お前ら一般人じゃない。そうだね……変人ってところかな」

 さらっと変人扱いかよ。俺はともかく、汐織ちゃんにまで変人呼ばわりはやめろよ。

「お前ら……今日、朝の事件からここに来るまでに変な感じはなかったか?」

 何言ってんだ。答えは当然わかりきっている。

「何もなかったにきまっ――」

「ありました!」

 汐織ちゃんの、凛とした声は俺の断言を遮った。
32:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/07/19 (Thu) 11:13:50

>>31


「へ?」

 俺は間の抜けた声を出してしまった。

 俺には何もなかったのに、汐織ちゃんにはあったのか。なんだかずるく感じるけど、嫌な予感もするので気にしないことにする。

「何を感じた」

 保険医はいつもと変わらない口調で訊く。

「なんていうか、こう……体が温かくなって、疲れがなくなっていくのを感じました」

 俺は、漫画の世界やらで起きることに似ていると感じた。でも俺が今いるここは現実の世界だ。何があってもおかしなことがあってはいけない。しかし、汐織ちゃんの言うことを信じないわけにはいかない。そんなことをしたら俺は、気になる子を信じれない野郎に成り下がってしまう。そうなるくらいなら、間違いの1つや2つ犯してやるさ。

「お前は心の中を黙らせろ」

 保険医からの忠告を受けた。もう、こいつが心を読めることは事実として受け止めざるを得なかった。

 俺が心の中での独白をやめたのを感じると、保険医は再び汐織ちゃんに向き直った。

「つまりは、治療系か……」

 ここはゲームの世界か? いや違う。ここは現実だ。これ、何回言えば済むのだろうか。

「お前が不審に思っている間、ずっと言い続けるだろうよ」

 もう心の声にいちいち反応するのはやめてくれ。精神的につらい。

「何も考えなければいいだろ」

「無茶言うなよ」

 保険医はシカト。なんで心の声には反応するんだよ。

「よし」

 何がよしだよ。

 保険医は、ハサミを持って俺のほうへ近づいてきた。

「え、何?」

 無表情で保険医は、その手に持ったハサミを俺の右足、それも太腿に突き刺した。

「……」

「……」

 俺と汐織ちゃんは無反応。いや、俺は無反応なわけが……あれ、もしかして平気だったりする? マジで?

 ………………ん?

 足から、なんていうか、こう鋭い何かが……。あれ、俺って平気なんだよね? そうそう、平気平気……って――

「んなわけあるか! めちゃくちゃ痛ぇ!」

「当たり前のことで騒ぐな。傷口が開くぞ」

「何言ってんだ。痛いから大声でてんだよ! 危険を発してるんだよ! お前保険医だろ、助けろよ! てか傷口はお前が開かせてるんだよ!」

「やれやれ、これだから最近の男ってやつは……」

 何言ってやがる。何を気取ってんだよ。いいから早く助けろよ。

「立花、お前が感じた何かを、こいつの傷口に使ってみろ」

「は、はい」

 汐織ちゃんは困惑した表情で俺の太腿に手をかざした。すると、傷口が見る見るうちに、治っていくではないか。それに、なんだかあったかい。

「よくできたな。まあ、あの光景を見たんだ。能力が現れるもの必然だな」

 人のこと刺しといてよく言う。俺に労いの言葉はなしか。

「よく頑張ったな。お姉さん、君が失神するかと思ったんだけどね」

 昔の口調で話すなよ、なんだか許せちまうじゃねえか。

「お前の扱いには慣れてるんでな」

 たく、食えないお人だよ。

「あ、あの……」

 汐織ちゃんが何か聞きたそうにしている。

「ん?」

 保険医が汐織ちゃんに視線を戻す。

「私は、変じゃないんですよね?」

 まあ、まっとうな質問だよな。人の傷を瞬時に治せるなんて、現実には考えられないからな。

「普通じゃないといえば、そうだが、変じゃない。ただ能力が開花しただけだ。基本的に一般人となんら変わらない」

「よかった」

「でも、あんまり一般人の前で使うなよ。見られたら今までの生活を失うことになるぞ」

「はい」

 弱弱しく感じた汐織ちゃんが、なんだかとても強く見えた。
33:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/11/06 (Tue) 01:59:22

>>32

 それに比べて、なんだ俺のこの体たらくっぷりは……。

 保険医に刺されて、汐織ちゃんの能力(?)を開花させる手伝いをしただけ。俺自身には何一つ得はない。

 俺はどうしようもないやつなのか?

 考えても見ろ、俺の能力なんてそれが汐織ちゃんと同じ能力なのかすら定かじゃないが、"他人の思考を俺の思考に似せる"能力だぞ。なんの利用価値があるっていうんだ。

「おう、そういえばお前に話すことがあって呼び出したんだった」

 おいおい、今の今まで忘れてたのかよ。見事すぎるよ。ああ、あんたはとても立派な忘れんぼさんだ。

「誉めるな。私は照れ屋なんだ」

 嘘つけ。

 それなりの付き合いだがそんな一面見たこともない。

「冗談だ。マジになるな」

「……それで、話って何だよ」

「お前、金属の円盤――持ってるだろ」

「ああ」

「ちょっと見せてみろ」

 逆らう気などないので、鞄の中から今朝手渡された円盤を取り出す。円盤は今朝見たときとは違い、別の色――桃色をほのかに発していた。

「こんなんじゃなかったぞ」

「……ふむ。やはりな。大丈夫だ」

「何が」

「この円盤はな、能力に反応して光るんだよ。その光の強さから能力の強さ、色で能力の種類、点滅の周期がこの円盤からの距離をあらわしている」

「この緑と桃色の光は点滅なんてしてないけど……」

 どうみても、点滅なんてしていない。常時光りっぱなしだ。保険医は俺を見て少しだが確実に憐れむような目をしやがった。

「お前、電気が点滅してるのは知ってるよな?」

 と蛍光灯を指差して言う。

「地域によって差はあるが、ここでは1秒間に50回、この蛍光灯は点滅している。ようはそれと同じだ。ずっと光ってるんじゃなく、短い間隔で点滅しているんだ」

「理屈はわかったよ。ならこの光は誰を指してるんだよ」

「ピンクは――癒し」

「それじゃ……」

 俺と保険医は汐織ちゃんを見る。

「わ、私ですか?」

 保険医は首を縦に振る。ちなみに俺は困惑。

「なら、この緑は?」

 保険医は、今度は俺をゴミでも見るような目をしてくれた。

「お前だ。自分の能力くらい自覚していると思ったが?」

「……ま、まあな。で、緑は何なんだよ」

「緑――精神操作」

 なんだか、せこそうな種類だな。それも俺の能力は恐らく中でも最低レベルだろうな。

「そんなことはないかもしれないぞ。光の鮮やかさは能力の潜在的な部分を映している。完璧じゃないけどな。よく見てみろ、お前の緑は鮮やかな緑だ。まだのびしろはあるぞ」

 のびしろって言われてもな。鍛え方なんてわかんねえからな。どうしようもないだろ。

「簡単だ。どんどん使っていけばいい。何事も経験が大事だ」

「やってみるよ。目的も何もないけど」

「頑張んな。立花も少しずつ使ってみるんだよ?」

「はい」

 ん? そう言えば、保険医は能力を持っているのか? こんなに詳しいんだから、当然あるだろう。

「あるっちゃあるが、私はあまり見せないようにしているんでね。ほら、円盤にも映ってないだろ? ある程度の技量をもっていると、自分の力で能力が放出されるのを防げるんだ。あんたたちもそのうちできるようになるよ」

 そう言って保険医は俺に円盤を渡し、俺達を保健室から追い出した。

 そのあとは仕方なく、汐織ちゃんと帰宅。こんな可愛い娘と一緒に帰れるなんて幸せだ。

 とはいっても、俺は女子と話すことが得意というわけじゃないから、会話が弾むなんてことはあるわけもなく、昨日と同じ場所で俺達はそれぞれの帰路に就いた。

 汐織ちゃんが別れ際に、

「お互い頑張ろうね!」

 と声をかけてくれた。嬉しいな。こんなことって実際にあるんだな。

 俺はそのあと、気付かぬ間にスキップになっていて周囲からの視線を鋏よりも深々と体中に突き立てられた。

34:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2012/11/07 (Wed) 16:28:19

>>33

 家に帰って、能力の片鱗でも使ってみようと思い立ったが、いかんせん家の中には俺しかいない。汐織ちゃんみたいな、一人でも変化を見れる能力じゃないから、一人じゃどうしようもない。今から友人と遊ぼうにも、時間が遅すぎる。

 そんなわけで、今日は能力を試してみることはやめた。家の人間が帰ってきても同じだ。なぜなら、うちの家族はみんな俺としたような思考回路しているからだ。それじゃ変化なんて見れるわけがない。能力の使用回数には限度があるのだから意味のない使い方はできない。それもあって、今日はいつも通りの生活を送ることにした。

 ゲーム、漫画、パソコン――やはりどれも楽しい。俺の心を満たしてくれる。昔はよく、外で遊んだものだ。……あの保険医と一緒に。不本意で、自ら進んで遊びたかったわけでもなく、あくまで親同士の友好関係のために嫌々保険医と戯れていたんだ。そうだ、決して他に友人がいなかったわけじゃない。トシ君とだって遊んでいたさ。……その回数を思い出せるほどには。

 昔のこと――とはいってもそんなに昔じゃないよな。これといって大きな事件なんてのもなかったから、俺の感じている時間軸に断層みたいなものもない。しかし、なんとも昔に感じるもんだな。それは、あれか? 保険医がガキのころに見た保険医――高枝晶、通称アキ姉――アキ姉が就職して、見合いをしているのを見ていると遠くに感じるんだよな。同じ校舎にいるし、家も自立とともに引っ越したとはいえ近所だけど、存在が遠く感じる。それに気づいたころからか俺は、アキ姉を"保険医"と呼ぶようになったんだと思う。向こうからすれば昔のままのガキなのかもしれない。

 そう考えると保険医は少しさみしい思いをしているのかも……いや、それはないか。そんなはずはない。会えば、皮肉を飛ばしてくるような女だ。俺の態度が心に干渉するはずがない。あんな見え見えの鉄扉で"自分"を隠した女がさみしさなんて感じるわけがない。

 いや、変なことを考えていた。なんであんな保険医のことなんて……汐織ちゃんのことを考えよう。――ああ、本当にかわいいよな。それに芯も通ってて強そうな娘だし……。



「聞くに堪えん妄想だな。まったく、昔から変わったことといえば、思春期の少年にありがちな妄想を膨らませることだけか? え? ゲンキ」



 なぜだか、窓のほうから声がしたので振り返ると――開かれた窓のあったサッシの上に私服姿の保険医が――いた。
35:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/11/11 (Sun) 02:10:55

>>34


「はい?」

 な、なんでそんなところから――

「なんでそんなところから、とでも言いたそうな顔だな」

「………………ご名答」

 ふふん、と憎たらしい笑顔を保険医は俺に送ってくれた。人の部屋の窓(2階)に勝手に現れるわ、第一声が罵声だわ、ムカツク笑顔を向けてくれるわ、本当なんて性格の悪い女か。全く、昔のことなんて思い出すんじゃなかった。あの頃のアキ姉と、この目の前の保険医は別人だと思えてしまう。一緒だと思いたいんだけどな……。どう考えても別人なんだよ。

 アキ姉はいつも俺を引っ張って遊びに連れてってくれる近所の気さくで楽しいお姉さんだったんだ。その時は、こんなに憎たらしいことも言わないし、優しいし、人付き合いも上手かったんだ。なのに、大学を卒業する辺りにがらりと人柄が変わっちまった。大学にアキ姉がいる間にはあんまり会う機会がなかったから、何がったのか全く分からない。

 はぁ……昔のアキ姉には会えないのかねぇ。

「そんなに、昔が恋しいのか?」

 別に、"恋しい"とかそんなわけじゃない。ただただ、懐かしく感じるんだ。少しの間とはいえ、会わなかっただけで人がこんなにも変わったら普通おかしく感じるよ。

「いや、ただアキ姉とあんたが本人かどうかを疑っててね」

「疑う? なぜそんなことになる。私は私だ。今も昔も、高枝晶だ。いくら歳を重ねてもそれだけは、寸分違わない」

「……わかってるよ。あんたがアキ姉だってことは、雰囲気でわかるよ。たとえ人当たりや言動が変わったところで、俺があんたを間違えるはずがないよ」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。誉めたところで何も出ないぞ」

 何も、ご褒美目当てで誉めちゃいないよ。俺はそんなに即物的じゃないさ。

「そうか、せっかく立花のスリーサイズをくれてやろうと思ったんだが」

「――っ」

 おいおい、そりゃねぇよ。卑怯だろ。あんたがさっき言ったように、俺は思春期真っ盛りの男子だぞ。狼一歩手前、犯罪者予備軍、一つ間違えれば、退学になりかねないことを、昼夜問わず脳内で行っているこの俺に女子のスリーサイズだと? 何を馬鹿なことを。

 ――欲しいに決まってるじゃないか。

「…………」

 ニヤリ。

 その言葉が非常によく似合う表情。この保険医、本当に一般人か? どう考えても悪魔か、それに準ずる何かだろ。思春期男子の純情で不純な心をもてあそびやがった。こりゃ許されることじゃないぞ。

「お前の妄想のほうが、口外すれば許されることじゃないさ」

「生徒の身体情報を渡す教師の言うことじゃないな」

「まあな。つまり私をお前は同類ということだ。今も、昔もな」

 痛いところをつくな。

「同類……ねぇ。昔から、あんたは俺とあんたを"同類"と言うけど、俺としちゃあ"同罪"の方があってると思うよ」

「確かに。"同罪"か……。言いえて妙だな」

 そんな、すかした感じじゃ、誉められてる気がしない。皮肉なら聞く耳持たないぞ。

「誉めてるんだ。素直に喜べ。……そうか、同罪か」

「なんだか嬉しそうだな」

「ん? 表情に出ていたか? いや、嬉しいのは事実だ」

「なにを喜んでるんだか」

「同類よりも、同罪のほうが私たちの絆――繋がりは強いだろう? この世界、明らかに同類よりも同罪のほうが圧倒的に数が少ない。つまりそれだけ、私たちは世界という名の集合体の中で、ものすごく小さく、体中が常にくっついているくらい密な存在というわけだ」

 と意味不明なことを申しながら、俺の近くへ徐々に徐々に近づいてくる。なんだこの野郎、人恋しいのか? なら、旦那探してからそいつに近づけ。あいにく今の俺は1人でも十分なんだよ。

「今の、か。昔のゲンキは常に人恋しかったからな。あの頃のお前は、それはもう目に入れてもいたくないくらいに可愛かったぞ。冗談抜きでだ」

 そんなことを真顔で言うな。冗談じゃないのは分かってるよ。当時のあんたは、可愛くて仕方がない孫を異常なまでに愛する爺ちゃんと同じくらいに俺の面倒を見てくれたからな。

「それは置いといて。なんで俺の心を読んで会話してるんだ。せめて一度整理しなおして俺の口から聞けばいいだろう」

「それじゃ、お前は嘘をつくかもしれないし、大事なことを分厚いオブラートに包んで話してしまうだろう。私は、昔のようにお前とは隠し事なしで話し合いたいんだ」

「何を言うかと思えば。なら、学校ではなんで俺に隠し事するんだよ」

「学校では、私が教師でお前が生徒だからだ。その関係を越えることは、少なくとも学校では許されない。だから、こうして語り合おうとお前の家まで来ているんだ」

 真摯にしゃべられても困る。

「だからって窓から来ることはないだろう。いつもはちゃんと、玄関から勝手に上がりこんでくるんだから」

 保険医は、肩をすくめて、

「いいじゃないか。たまには、男女の中をよくするにはサプライズが重要だと言うだろう?」

 などとほざく。

 それは、恋人の場合くらいだろ。友人関係や教師と生徒の関係にそんなもの必要ないだろう。

「おいおい、私たちは確かに恋人じゃないが、少なくとも今は一般的な関係じゃないはずだ。言っただろ? 私たちは恐ろしいほど蜜な関係なんだ。サプライズの一つでもしてくれ」

 そんなの、不機嫌な顔で言われても困る。

「考えとくよ」

 俺は適当に返すことを即座に判断した。これ以上、このペースで話す気はない。

「で、なんの話?」

 窓からやってくるくらいだ。よほど、おもしろい話だろうな?

「私のことを学校以外で"保険医"と呼ぶな。特に心の中でな。ちゃんと私の"晶"という名前から2文字以上使って私のことを呼べ」

 なんともまあ……面倒で、女らしいのかよくわからないお話だ。

 ただ、何となく心に響いたので、その言い分には応じることにする。

 これからは"保険医"ではなく、単純に昔のように"アキ姉"と呼ぼう。その方が、なんだかしっくりくる。うん、そうだ。その方がいい。

 学校では呼ばないけどな。心の中以外。周りの女子に聞かれてみろ、俺はすぐに高枝先生のファンによる陰湿かつアグレッシブな嫌がらせを受けることになるからな。

「わかったよ。アキ姉」

「分かればよろしい」

 にこっ、と昔のような笑顔で答えてくれた。やっぱり、アキ姉はアキ姉だな。

 
36:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/11/20 (Tue) 01:54:58

>>35

 翌日。

 俺は、いつも通り自分の部屋で目を覚ました。多少寝ぼけながら、昨日のことを思い出した。

 あの後、アキ姉とは小1時間ほど話をした。別に何てことない世間話みたいなものだった。学校では不愛想にしているが、ちゃんと俺のことを昔みたいに見ていてくれるのが分かった。そう考えると、俺は今も昔も変わりもせず、子供っぽいというのか、危なっかしいというのか、そんな感じに見えているんだろうな。たとえ、見た目は思春期の青春を謳歌しているごくごく普通の少年であるとしても、だ。

 ああ、考えすぎで頭が痛い。寝つきが悪くて、色々と考えてたら2時間なんて当たり前のように過ぎやがる。自業自得とは言え、辛い。

 朝食を簡単にとって学校へと向かう。道中何事もなかった。知り合いを見かけることもなく、我が学び屋へと歩を進める。少し早く来たからなのか生徒も教師もまばらにしかいない。教室にも俺が一番乗りだった。やることは特にないから――寝る。





「…………ぅ……ん」

 目が覚めた。

 周りにはクラスの人間の半数以上がそろっている。時計を確認。始業5分前。見事な体内時計だな。自分の体の出来を誉める。自分でたたえながら、少し恥ずかしさを感じる。

 1人で何やってんだか。

 視界の端に金子の姿を確認。残り時間が短いから、話しかけにはいかない。めんどくさい。ボケーっとしているうちに始業のベルが鳴った。

 午前の授業はいつもどおりに終了。変わったことと言えば、金子が全部の授業起きてたことくらいだな。あれ? つまり俺も全授業起きてたのか。雨が降りそうだな。

 昼休み。

 いつものメンツと食堂へ。

 席に男どもで陣取り食事を開始。

「……そう言えば、昨日高枝先生を見たよ」

 唐突に棚辺が切り出した。俺ちょっとドッキリ。

「へぇ、どこで見たの?」

 金子の当たり障りのない返し。

「田幡の家の近く」

 その発言を聞くや否や3人揃って俺を見る。近くで見ただけじゃ関係ないだろ。

「なんだよ。俺は知らねえぞ」

「そうだよね」

 中村君。それ何気に傷つく。やめて。なんか興味ないから、みたいな言い方はイタイ。無関心はやめて……。

「そうだよねって、どういう意味だ」

「田幡君は高枝先生みたいな人には興味ないだろうって意味だよ」

 中村君ではなく金子が答える。

 興味――ないと言えば嘘になる、な。

「興味なくはないけど」

「女性なら誰でもいいの?」

「そういう意味じゃねえよ。てかなんでその発想が出てくるんだよ」

 まったく、なんで俺は女好きみたいな扱いになってるんだ。納得いかんな。誰某構わずに好きなわけじゃない。俺にだって好みはある。

「保険医って人気あるよな」

 分かり切っていることをきいてみる。

「女子男子問わずに人気だね。内訳は女子の方が上かな。男子的には特殊な部類だろうから」

 棚辺はその手の話に詳しいな。いい顔をお持ちの方は凡人とは一味違う。うらやましいもんだ。

 保険医――アキ姉は特殊、か。確かに男受けはしないかな。女子からはクールってことでかなり人気だよな。すらっとしたシルエット、淡白な言動は女子をひきつけるんだろうな。男はそのあたりは人気微妙そうだな。

 こんなこと考えている意味あるのか?

 よくわからん。

 これ関連の話なら、かの議論で話せばいいか。

 今日は、帰りが遅くなりそうだ。

 
 午後の授業は寝た。盛大に寝た。午前中のことはやはり奇跡じゃないかと思うくらいに寝た。

 目がさめればショートホームルーム。俺の午後はいつも短い。

 掃除当番のために机を後ろに下げて、俺は久しぶりにある教室へ赴く。

 さあ、久々の議論だ。

37:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2012/11/24 (Sat) 12:30:03

>>36


 屋上にもっとも近い階層――格好つけたりしたけど単純な話、生徒の行ける階の最も高い場所――校舎の5階。理科の実験室や軽音部が練習する多目的教室などがある、用がなければ基本的に誰も立ち寄らない階、そこの一番奥に薄暗い空間がある。そこには、クラスの掃除箱のほうが小奇麗に見える扉を持って一般生徒ならびに用のない、その中身を知らない教師を阻む教室は存在する。外面こそ、不気味だが中はいたって普通の教室だ。大きさは一日のおよそ三分の一を過ごすであろう教室の二分の一ほどだ。その事実すら、あまり知られていない。せめて教室の存在くらいは教師は知っておくべきなのだろうが、知られないほうが俺――もとい俺たちには好都合だ。

 さて、この扉を開くと現実っぽさは皆無へと一気に近づく。一般人にはあまりおすすめできない世界かもしれない。……いや、俺は一般人だけども。

 ドアノブに手をかける。この教室は、引き戸ではなく開き戸なのだ。ドアノブを回す。扉を開く――こんな造作もないことで、今までいた場所から別の場所へと移動する。

 特に臭いや雰囲気に変化はなかった。

 ただ教室の中には長机とパイプ椅子が中央に位置し、壁の五分の三を色の統一されていないカラーボックスが占めている。ボックスの中身は、漫画だったりノベルズだったりする。ちなみに残りの五分の二は冷蔵庫、テレビなど本来学校に必要のないモノで埋められている。

 照明は、蛍光灯を除けばただ一つの窓から差し込む日光だけだ。

 まあ、説明――久々に訪れる俺が思い出したこの部屋のことは置いておこう。大して必要なことではない。

 そんな混沌と仕掛けている部屋には、誰もいなかった。

「誰もいないのかよ」

 独り言がぽつりとこぼれる。

 うちのショートホームルームが他のクラスよりも比較的速く終わるだけなのだろう。そう考えれば俺が一番最初にこの教室にいても不思議じゃない。思えば、来る途中に軽音部の部員を見ていないな。

「…………はぁ」

 ため息をつく。

 他のメンツが来るのを待つとするか。それほど時間はかからないだろう。

 鞄を机の上に置き、カラーボックス――本棚とは言わない――から読んだことのない漫画を手に取る。

「……………………………………………………」

 なんだこれは、他にも薄い本はいくらでも(大半は隠して)ある。でもまさか、こんな――ディープなものがあるとは。ただでさえ見つかったら問題だというのに、ますます、教師に知られたら面倒なことになりそうだな。この部屋もそろそろかな。――いや、ここの奴らの頭がそろそろだ。

 俺の手にあるのは、週刊誌の単行本と、薄いせいでそれと一緒にとりだしてしまった、ディープな内容(表紙があからさまな)の薄い本――所謂同人誌だった。

 ここは、学校だぞ。いくらなんでもこれはいかんだろう。俺は理性を頼りに本棚に戻す。理性を頼る理由はただ一つ。俺が思春期の少年だからだ。これ以上を口にするのは酷というものだ。というより、俺にこっちの世界へ足を踏み入れる気はない。

 単行本を持ったままパイプ椅子に座る。パラパラと眺める。最近、女が主人公のバトル物が多い気がするな。気のせいか。

 中ほどまで読み進んだところで、扉が開いた。誰かが来たみたいだ。

「……お」

 俺に気付いたようだ。

「…………」

「なんか言えよ!」

 俺の次に教室に入ってきたのは――葛城だった。


38:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2012/11/28 (Wed) 16:27:00

>>37

 無言――。

 葛城のヤツ、俺を見て声を上げてから一言も口にせず、黙々とマンガ読んでやがる。くそ、しばらく来なかったからってそんな冷たい態度とらなくてもいいのに。

 葛城――見た目が地味。あんまり存在感がない。短髪でメガネ着用。第一印象、真面目。趣味はハッキリしない。いろいろやってるっぽい。――あんまり思い出せることないな。記憶があいまいなんじゃなくて、明確な情報自体が多くないのが問題だ。俺、こいつのことあんまり知らないんだな。気にしてないけど。

 早く他のヤツこないかな。沈黙はつらい。誰かと話したいな。誰か俺と話してくれないかなぁ。

 ……。俺は寂しがり屋か? そんなことはない。別に一人でだってなんてことなく過ごせるさ。たぶん。

 しかし、誰も来ないな。もう掃除が終わってもいいような時間だぞ。実はみんな外にいて俺の様子をうかがってるとか、そういう感じなのか? いや、あいつらに限ってそんなことはないだろう。考えは及ぶだろうけど、行動はしないだろう。なぜなら、この部屋にはあいつらの愛してやまないマンガ等々があるのだから。ちなみに、本棚の後ろにゲーム機が隠されてたりする。俺は触ったことも見たこともほとんどないけど。

 寂しさゲージが指数関数的に上昇しかけたときに無口を気取っていた葛城のやつが口を開いた。

「……そういえば、久しぶりだな」

 今気づいたのかよ。

「まあな」

「連絡なしに来ること自体は何ら問題ないけど、何の用さ」

「いやぁ、ちょっとここの奴らとお話を……」

 何をしに来たのかど忘れしたので、それなりに近い言葉で言いつくろった。

「へぇ。ここで、話すってことは内容はあんまり普通じゃない感じなのか?」

「いや、そうでもない。よくある話――高校生なら誰だってしたことはあるんじゃないだろうかって話」

 目的を思い出したので大雑把に説明しておく。こいつも話には参加するんだろうから、フライングはまずいだろ。

「そういう類の話ならここじゃ結構してるんじゃないの? ここ最近は読む漫画もなくなってきたし、みんな金ないから」

「なら、やりやすくていい。話を分かっている奴が多いほど内容は深くなるからな」

 とはいえ、この先、ここへ何人やってくるのかなんてわかるはずがないから。もしかしたら今日は何もせずに帰宅かもしれないな。

 ふと、周りを見渡すと前に来た時よりも幾分か部屋が広いことに気が付いた。

 ん……。そういえば――。

「なあ葛城」

「何さ」

「この部屋広くなってないか?」

 葛城は、部屋を見渡して少し考えるようなそぶりをした。その数秒後、返事が返ってきた。

「そういえば、2週間前くらいにたちの悪い人物が来たんだった」

「たちの悪い? 教師か?」

 葛城は首を縦に振る。

「誰だよ」

「お前の大好きな――僕の愛してやまない、高枝先生だよ」

39:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2012/12/13 (Thu) 16:29:37

>>38

「あいつ、ここに来たのか」

「うん。いきなり現れたからビックリしちゃったよ」

「まぁ、この部屋にメンバー以外の人間……存在が来たこと自体驚きだしな」

「なんで人間を存在に言い換えたのか気になるけど……。あの人ならあり得ると思うよ。ほかの教師連中とは違って生徒側にいるんだから」

 教師側にいないのはわかるが、俺たち生徒サイドでもないと思うが。

「こっち側じゃないんじゃないか? 生徒にだって賛否両論だろ」

「こっち側じゃないよ。生徒側だよ。僕たちと一般生徒は区別しておくべきだ」

「ん? なんでだ」

「そりゃ、学校の教室をあまり使っていないとはいえ、勝手に占領して私物化してるんだから、一般生徒とは区別すべきだよ。一つ間違えば停学じゃすまないかもしれないしね」

「……考えてみれば確かにそうだな。俺たちは、他の生徒たちとは違うんだな」

「そういうこと。そいで、高枝――アキラ先生がここに来て、今僕が言ったことと同じことを言ったのさ」

 なんで名前を言い換えたんだ。

「つまり、お前はあいつの言ったことを俺に言ったわけか」

「そういうこと」

「なんか脅しみたいだな」

「みたいも何も、最高に背筋の凍る脅しだよ。アキラ先生に会えなくなるなんて嫌だもの。あの人に会えなくなるならこの学校に来る意味がない」

「あいつが転勤しなくてよかったな」

「ホントにね。あ、それで黙っててもらうために向こうの要求に応じたんだよ」

「その状況じゃ仕方ないな。で、何を要求してきたんだよ」

「広くなったと感じる原因のパソコン」

「……そりゃ痛い」

「――と田幡のお気に入りの薄い本。パソコンよりもこっちのほうが目当てだったらしい。手に入れるや否や颯爽と去って行ったよ」

「そうか。それは大変だった――――なぁ?」

「うん。大変だったよ。いやぁ、あの場に田幡がいなくてよかった。僕たちの宝を持って行かれるわけにはいかない」

「――つまり、俺犠牲になった?」

「うん。珍しく全員一致の意見だった」

「ほう……つまり」

「つまり、みんなで田幡を売った。僕らの身を守るために。仕方がなかったんだ。僕らの宝――小さいイベントから聖戦(もどき)まで幅広く参加して手に入れた戦利品――を失うわけにはいかなかったんだ」

「勝手に動機を話すな! 訊いてもいないのに、人殺しの動機を話す犯人かお前は!」

「そのツッコミを待っていた!」

「待つな! こんな状態でよくボケれるな」

「まぁ褒めるな」

「褒めてない」

「ああ、そうそう。みんなは来ないよ。風のうわさで田幡がここに来ると分かったから、僕だけが来ることになった」

「逃げやがった!」

「もう遅い。あいつらの逃げ足と帰りの速さだけは一級品だ」

「さすが、元中学帰宅部のエースたちだな!」

「僕は違うけどね」

 知ってるよ。

「そうだ。僕にかまっている暇があったら、君の宝を救いに行くべきだ。金魚じゃなく姫を助けるんだよ」

「わかってるよ。じゃあな」

 鞄を持ってそうそうと立ち去る。目指すは――保健室!

40:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2012/12/20 (Thu) 16:31:31

>>39


 畜生、議論どころじゃない。

 俺の宝を持ってかれるとは――。自分たちの宝を守るために、俺を盾にしやがった。

 ……あれ、葛城ってイベントものについては来るけど、とくにこれといってやらしい類のものは買わないよな。自分のほしい健全そうなものは買うけど。そういえばあいつ、本屋とかレンタルビデオ屋の暖簾をくぐれないらしいからな。その点であいつは、俺たちとは違う。でもその辺に興味がないわけじゃない。むしろ興味津々だ。あいつはむっつりスケベだ。再確認。

 5階から1階まで階段を下りるのは疲れはしないけど、少し危ないな。たまに足を掛け損なってそのまま――なんてことにならないかと、たまに気になる。

「よし」

 何とか1階まで何もなくこれたぞ。あとは保健室へ直行するだけ。

 保健室の電気は――点いてる。

 扉の前で止まる。

 息を整えて、扉を開く。

「おい、保険医――ってあれ?」

 そこには、なんとこの日差しが強くなり始めてる時期にはそうそう見られないほどの恰好――黒を中心にコーディネイトされた、ドレスのような服をきた女性がいた。それも長袖。

 一目見ただけで、ビビっときた。

 この人、めちゃくちゃ暑そう。

 黒い女性は、ドアに背を向けていたが、少し間を置いてこっちを見た。そして――

 ニコリと、笑った。

 綺麗だ。

 俺が知る限りの褒め言葉を総動員しても、褒め足りないくらいに綺麗だ。可愛いとかそんなんじゃなく、ただただ綺麗なんだ。

 肌は透き通るように白く、背中の真ん中くらいまである髪は脱色したかのように薄い色だ。体型はスラットしていて、出るとこは出て引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる。それが、服の上からでもしっかりとわかる。それほどまでに、女性の黒い服はタイトだ。

「何を見とれてる」

 後ろから声がした。このタイミングで現れて、このよく通る凛とした声を発するのは一人しかいない。

 振り返れば、予想通りの人物――高枝晶がいた。

「私のいない間に、客人になにもしてないだろうな」

「俺は今来たばっかりだよ」

「そうなのか?」

 美人に問いかける。

「……」

 無言。しかし笑顔は崩さない。

「どうなんだ」

「日本の男の子って野蛮」

 笑顔で何てこと言いう。

「ほら、本人がこう言ってるが?」

「弁明を!」

「被害者からの意見が最重要だ」

「そんな理不尽な」

「たとえ冤罪でも引っ張っていく」

「冤罪ってわかってるじゃないか!」

「おや? そんなこと言ったかな?」

「言ったよ。自分で言ったこと忘れるなよ!」

「ふふ」

 笑いながら、自分の定位置――回転いすに優雅に腰かける。

「まぁ、お前の破廉恥な行為は置いておいて」

「そんなことしてねぇ」

「気にするな。戯れだ」

「うわぁ。俺、戯れで犯罪者扱いかよ」

「これを見ても文句が言えるか?」

 そう言い、机の引き出しから、宝が現れた。

「ごめんなさい」

 俺、即答。

 俺は負けた。汚い手で負けた。いや、汚いのは俺自身なのかな。

「日本の文化ってやぁらしぃ」

 甘ったるい声で美人が言う。

 そういえばあんた誰だよ。

「ああ、紹介が遅れたな、こいつは――」

「自己紹介くらい自分でできるよ」

 保険医を制して、前に出る。

「やあ、少年。私はアリスだ」

 綺麗で日本がとてもお上手な女性は、アリスというらしい。

41:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2013/01/28 (Mon) 14:41:43

>>40

「はあ、どうも」

 俺はおざなりに挨拶を返す。

 だって正直、こんな綺麗な人にどう接したらいいのかわかんないもん。

「ん? 元気がないぞ少年。どうした、晶に何かされたか?」

「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。私は何もしていないぞ」

「その薄ら笑いは、相変わらずだね」

「そういえば、ちゃんと紹介しておこう」

 そういい、保険医は俺に向き直る。

「こいつは、アリス……ファミリーネームとかは忘れた。見ての通り日本人だ」

「いや待て。どこが日本人なんだ。どう見ても外国人だろ。それにあんた今、ファーストネームとか言っただろ」

「いやあ、苗字もファーストネーム一緒だろ。気にしない気にしない」

「紛らわしい……」

「晶。私の苗字は沼寺だよ。忘れないでよね」

 アリスは保険医に、そういってから俺のほうを向く。

「ちゃんと自己紹介をするよ。私は沼寺有珠っていうんだよ。見た目はお母さん似だからなんだ。私はハーフだからね。どうだい少年。驚いただろう?」

 なんつー気さくな女性だ。ビックリ仰天、たまげたなぁ――と思っておいてやろう。正直な感想を言えば、紛らわしい見た目だな。名前は生粋の日本人じゃねぇか。むしろそっちに驚いたよ。特に、苗字と名前のギャップに驚天動地――いや、そこまでじゃないか。

「アリスと私は、大学時代からの付き合いでな」

「そうだね、孤高と気取ってる女子がいてムカツクから話しかけたのが最初なんだよ」

 保険医は大学時代、孤高を気取っていたのか。初耳だな。

「それ以来、私とアリス、それと他にもう2人のメンバーで大学時代を謳歌したよ」

 おいおい、あと2人って……。まだこれ以上キャラを増やすのか。勘弁してくれよ。俺の脳味噌が爆発しちまうよ。

「それで、アリス。今日は何の用だ」

「もう、晶はいつもツンツンしてるね。もっと女らしくなりなよ。そうしたら、モテるよ」

「いいよ。今の時点で十分モテてる。これ以上は望まん」

「ええ。学生時代はツンケンしてたせいで友達の一人もいなかったのに。人って変わるもんだね」

 この人、言いたい放題だな。保険医は言い返したりせず、ただ聞き流してるし。こりゃこの人の扱いに慣れてるな。よっぽど仲がいいのだろう。

「話をそらすなよ。何の用で私の職場にまで足を運んだんだ。めんどくさがりのお嬢様」

「今日はね。同窓会みたいな感じのイベントらしき飲み会のお誘いできたんだよ」

「飲み会? 悪くはないけど。誰が来るの」

「私と、マキちゃんとサヤちゃんは絶対来るでしょ……。あとはよくわかんない」

「あの2人が参加するなんて珍しいな。ふむ、行ってみるか。日時は?」

「今日、今から」

 突然すぎるご招待! 俺は蚊帳の外なんで、激しめのツッコミで存在アピールをすることに決めた。一応主人公は俺だぞ。キャラインフレが始まりそうな予感がプンプンしてるんだ。こうでもしないと主人公としてのメンツが保てない。

「今からってのは冗談だろ。で、何時からだよ」

「バレちゃったか、てへっ」

 さっきのツッコミが完全に空回りだ。でもツッコミどころをアリスさんは作ってくれる。現時点ではいい人。

 てへっって言うって少女かよ!

 …………滑った。心の中で叫んでいるだけなのにものすごい滑った。なんか語感悪いし。こう、しゃべるときに上がったり下がったりする感じが気持ち悪い。勢いが完全になくなってる。自分に自信が持てなくなってきた。

 見た目に対してセリフが合ってなさすぎる。180度違うよ。ギャップを通り越して違和感だよ。

「今日の18時から。駅前の居酒屋に来てちょ」

 なんだよその語尾。キャラが安定しないなこの人。登場からそれなりに経っているのに、キャラが安定しないというのはいかがなものか。もしこれが、作者の存在している作品だったとするなら――これは作者の手抜きに違いない。こんな不安定な人がいてたまるか。

「18時か。まあ遅れるかもしれないが、行くよ」

「わかったよ。待ってるからさ」

「しかし、なんで携帯で連絡してこなかったんだ? アドレスも番号も教えてあるだろ」

 そこで、ハッとするアリスさん。

 なんと、まさか、こんなことでキャラ確定? もしや、アリスさんてドジっ子なのか。よし、キャラ確定だ。

「晶に会いたかったんだよ。たはは」

 言いつくろい方が明らかに、忘れていた風になっているぞ。これは確定だな。

「アリス、嘘はよせ」

 そうだ。認めるんだ自分がドジっ子だということに。俺は好きだぞ、ドジっ子。恥ずかしがることはない。さあ、さらけ出すんだ!

「晶にはバレバレだね。ごめんね。マキちゃんに携帯盗られちゃってさ。泣いてお願いしたんだけど、サヤちゃんに捕まっちゃって歩いて行けって言われちゃったの。財布はサヤちゃんに持ってかれちゃった……てへっ」

 ………………………………………………いや、てへっじゃないだろ。なにそれお友達の関係じゃなくない? 俺のドジっ子妄想劇は何処に? この人、完璧にいじめられっこだな。キャラ不安定とか言って悪かったと思う。なんかもう、この人は不安定でいいと思う。そうでもしてなきゃ自分が保てないんだ。そうか、そうだったのか。俺はこの人にやさしく接してあげよう。そしていつかは本当の幸せを手に入れてほしい。

「そうか、あいつら、私の言ったとおりにしているのか」

 アリスさんの不憫の原因、ここに降臨せり! 至急、警察を呼んでくれ……あ、それじゃ俺も道ずれじゃないか。やめよう。己が身のほうが初対面の人よりも何倍も大切だ。うん。許せ、アリスさん。南無。

「あ、やっぱり? もう、冗談きついなぁ」

 この人もしかして馬鹿なのか…………?


42:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2013/04/08 (Mon) 18:11:20

>>41

 冗談きついって明らかに冗談じゃないでしょこの状況。アリスさん、不憫すぎる。いつも行動していた4人グループのうち3人が敵じゃないか。そんな状態でよく学生生活を送ってこれたな。俺はそこが謎で仕方ないよ。

「おいおい、私たちを敵とか言うな」

 久々に俺が会話に入れるチャンスが来たことを俺は喜ぶべきなのだろうか。

「敵と言わずになんというんだよ。ほかに思い当たるのはいじめっ子だけど」

「いじめじゃないよ。私はアリスのためを思ってだな」

「子供に行き過ぎた暴力を働いた後の虐待両親の戯言に似ている気がするのは気のせいか?」

「気のせいだ。だいたい、アリスはすぐに何かを頼りたがるんだ。本当は会いたくてたまらないくせに携帯で済ませようとしたり――まあこれは頼ってるわけじゃないな。ただ、こいつの家は金持ちで裕福に暮らしていたせいだろうなすぐにタクシーに乗ろうとするんだ。私たち3人は、アリスの両親から社会に出ても恥ずかしくないように――と頼まれてるんだ。私たちだって辛いんだ」

 絶対に辛くないだろ。あんたの性格で辛いことってなんだよ。俺に教えてくれ。

 やっぱり教えてほしくない。

 保険医から視線をアリスさんに向けると――泣いていた。

 なぜに。

「晶……私のために辛い思いを――」

 本当にキャラが固定しない人だな。そろそろ俺も面倒になってきたぞ。これが本性かどうかは知らないけど、一緒にいるってつらそうだな。

 ――ああ、保険医が辛いのはこれかな。確かに辛いわ。

「いや、嘘だ」

 嘘かーい。

 もう面倒だからこんな感じでもいいだろ?

「え?」

「だから、嘘だよ」

 どこから嘘だよ。

「具体的には『いじめじゃないよ』のあたりから」

 じゃあそれはいじめじゃないか。

「いや、今のは冗談だ」

 ならどこから嘘なんだよ。

「『いや、嘘だよ』が冗談で――」

「チェストーッ!」

 突然アリスさんが保険医に手刀を繰り出した。

 ただ、まあ本当にお嬢様育ちなんだな。

 遅っ!

 せめて家で訓練くらいさせてくれよ。これじゃ護身なんてできないじゃないか。仮にも金持ちのお嬢様なんだろ? 武芸の1つや2つ心得ておくべきだろう。そうじゃないのか? ねえ、アリスさんのご両親。

 あ、手刀の行方は保険医の手の中です。当たり前のように受け止めました。

「晶は、晶は……また嘘をつきましたね?」

「まあね」

「私は嘘が嫌いだって知ってますよね?」

「いやそれは知らないね」

「嘘を――」

「だってアリス、お前のが嘘つきだろ」

 はい?

「財布持ってるし、携帯も今持ってるだろ」

「…………どこからバレてた?」

「『今日、今から』のあたり。お前はいつも1つ冗談なり嘘をつくと暴走するからな」

「さっすが晶」

 二人で笑い合ってます。

 どうもこんにちは、蚊帳の外にいる主人公ですよ。

 ああ、今回わかったことがある。

 アリスさんは、キャラが不安定じゃなかった。彼女は――。

 嘘つきだ。

 
43:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2013/05/10 (Fri) 12:30:27

>>42

 はてさて、アリスさんにキャラクターが定着した(発覚した)とこは喜ぶべきところである。その方が俺としても接していきやすい。人格破綻者や多重人格の人間との付き合いは難しいだろ。その点からすれば、アリスさんはただの嘘つきってだけで、見た目もいいので問題なんてどこにもないだろ。問題はそれよりも――。

「なんでこんなことになってんだよ」

 なんとアリスさんの発言は嘘だらけであったようで、ウソがばれた途端サヤさんとマキさんも保健室に入ってきた。それだけならまだいい。なんで俺に絡んでくるんだよ。嬉しいけどさ。

「アキラ。ゲンキ君って彼女もち?」

 なんだよその質問。意味が全く分からないよ、マキさん。

「知らんな。本人に訊いたらどうだ?」

「それもそうだね。ねえ彼女いる?」

 なんとまあストレートな質問だな。その分、正直に答えないと後が怖い。

「……いませんよ」

「そうなんだ。モテないんだ」

 余計な御世話だよ。なんだよ、てっきり「えぇー、こんなにカッコいいのにぃ」みたいなこと言われると思ってたよ。

 ……え? 自惚れすぎだって? わかってるよ。でも期待ぐらいさせてくれよ。こっちはよくわからない女性3人にちょっかい出されてるんだ。少しくらい幸せな妄想はさせてくれ。でないと精神的につらい。

「やめてあげなよ、マキ。でも彼女いないんだね。こんなに――」

 おっと、妄想が現実になる時が……。

「キュートでプリティーな顔してるのにね」

 嫌だ、現実に帰してくれ。かわいいならまだよかったよ。なんだよその表現。男は結構傷つくんだよ。俺は最近話題の男の娘やオネエ系男子でもないし女装趣味はない。いたって健康的な男子高生だ。

 いい加減この調子ではヤバい。保険医に助けを求めねば。そう思い保険医に目をやると。

「女装か……」

 何不吉なことつぶやいてくれてんだよ。こっちの身が危険になるだろう。

「あ、いいね。女装させよう」

 ほらぁ、サヤさんが変なこと言い出したじゃないか。どうやって収拾つけるんだよ。

「確か、このあたりに女子の制服が……」

「何してんだよ。冗談にしてはいきすぎだぞ」

「何言ってるんだ。冗談なわけないだろう。私はいたって真剣に女子の制服を探してるんだ」

 お前は俺の服のサイズとかわかってそうだよな。保険医だし。しかし、どうやって抜け出そうか……。

「ゲンキ、ほらこっち」

 サヤさん、マキさんが保険医とともに制服を探し始めたとき、アリスさんが俺に声をかけてきた。

「ほら、今のうちに逃げなよ」

「あ、ありがとうアリスさん」

 俺はアリスさんに礼を言って彼女に背を向けた。そして――。

 カチャッ。

 ん? 何の音だろう。心なしか俺の手に重さが……。

 手錠がかかっていました。これどこから持ってきたんだよ。

「逃がさないよ」

 アリスさんって嘘つきだったの思い出したよ。なんだかもう諦めよう。さっさと楽になろうじゃないか。そうさ、この人たち以外に俺の痴態を見せることはないだろう。そうだ、ほんの少しの我慢だ。よし、腹は決めた。さあどんと来い。

「覚悟は決まったのか」

 手に女子の制服を手にした保険医。

「まあ、な」

「そうか、なら次なるゲストだ」

「へ?」

「入ってこい」

 保健室の扉から、汐織ちゃんが入ってきた。俺は、全力で逃げようとしたが大人の女性4人に必死の抵抗もかなわず捕獲された。
44:アリア ◆fr2FETe1Ug :

2013/05/17 (Fri) 12:33:11

>>43

 捕獲されてからのことはここでは語るべきではないだろう。別に公的に見せられないようなことがあったわけじゃない。ゴールデンタイムに放送しても大丈夫な内容であったことは明白だ。しかし、俺が知られたくないのだ。ただでさえ暴落している俺の株をこれ以上下げるべきではないのだ。これ以上人間として終わりたくない。

 そんなわけで、女性陣4人にひどく辱めを受けました。汐織ちゃん参戦によって何かイベントは起きるかと思ったが、別人格の彼女を見ることができたということぐらいしかこれといって良いことは起こらなかった。そう、良いことは――だ。

 当たり前だが悪いこともあった。それはすでに言った通り、俺の口からは言えない。ふとした拍子に誰かが口を滑らせるなんてことがあり得るが、まあ大丈夫だろう。

 それで今日は忘れたい事件ランキングトップ3ランクインの事件発生の翌日だ。あの後保険医はアリスさん、マキさん、サヤさんと共に同窓会に向かった。汐織ちゃんはなぜだか満足そうな表情で保健室から出て行った。あれは、なんだったのだろう。考えたくはないが気になる。そのうち彼女のほうから話してくれるだろうか。

 昨日のことを俺は7割ほど記憶から抹消して、精神的に落ち着いたので登校した。いつもより遅い時間に着いたので教室にはクラスメイトがほとんど揃っていた。教室に入り、自分の席についている金子に挨拶をした。

「よう、金子」

「…………」

 金子からは返事がない。ただの屍ではないようだが(実際こっち見たし)、その目からは憐れむものを見る視線を感じた。

「な、なんだよその目は……」

 そう俺が言うとおもむろに金子が携帯電話をポケットから取り出した。そして、俺に見ろということなのかメールを見せてきた。金子のケータイを拝借して、メールの内容に目を通した。

『最上階のたまり場の諸君、及びその友人たち

 このメールを読んで添付データを確認し感想を送ること。

 さもなければ、あの教室のことを職員会議で報告する。

 高枝晶』

 一体なんだ? 添付データ?

 ああ、あったこれか。添付されているデータを開くとディスプレイには――昨日の俺の痴態(目線付)が映し出された。

「――――――っ」

 声も出ないほどに驚いた。いやいくらバレルとはいえ早すぎるだろう。日付は、昨日の19時。完全に同窓会中じゃねえか。あいつやりやがったな。

 俺は律儀に授業を全て受け終えてから放課後、再び保健室へと向かった。
45:アリア ◇fr2FETe1Ug :

2013/05/24 (Fri) 12:19:53

>>44


「これはどういうことだ!」

 保健室の扉を開けるや否や俺は保険医に怒鳴りつける。保険医は俺の怒りなど知ったことではないように涼しい顔をしてもとの事務作業に戻った。

「無視すんな。どういうことだと訊いてるんだ」

「いいのか? お前の恥ずかしい写真について感想が飛んでくるぞ。早めに対処すれば被害は最小で済むと思うが」

「ふん。いらないミスリードするなよ。俺はあいつらのことを信用してるんだ。あいつらはあのメールをもらってすぐに返信したはずだ。保身のためにな」

 なんという信頼だろう。我ながら感服するね。ここまで仲間のことを理解してるんだぜ。少しくらい躊躇ってほしいところだが、あいつらが躊躇うわけがない。特に葛城は1分かかったかさえ不安だ。あいつのことだ、保険医からのメールにテンションを上げて下げるのに5秒、写真を確認するのに5秒、返信内容を考えるのに10秒、打ち込むのに15秒、そして返信に5秒――計40秒。マジでやってそうな気がする。

「恐ろしいくらいに予想が当たってるな。その通りだ、私が送信した相手全員から30分以内に返信が来た。私のいうことに従順でいてくれて本当に助かるよ。まあ葛城の従順度にはさすがに少し引いたがな」

 おいおい、この保険医に引かれるって相当だぞ。葛城よ、お前の恋は叶いそうにないな。だが、人生での間違いは修正できた。この女に惚れたことそのものが間違いだったと気づいてくれれば、それ以上のことはないだろう。

「葛城のやつ、32秒で返信してきた。恐ろしい男子だよ」

 俺の予想を簡単に抜き去るとは……。大分早めに見積もったんだけどな。あいつの従順さは、金子の主人への忠誠心並みだな。まあベクトルが明らかに違うけど。

「まあ終わったことだ気にするな」

「気にするよ」

「安心しろ、この手のデータは30人ほどのサンプルがあれば十分に研究できる」

「研究ってな、おい……」

 30人? 俺の友達ってそんなにいないぜ? いても20人がいいところだ。そりゃ仲良くしているやつなら結構いるが、連絡を取って休日遊んだりするやつはそんなに多くない。あれ? じゃあ残りの10人は誰?

「なんだ、疑問でもあるのか?」

「なあ30人って誰に送った。俺の友人関係者は20人がせいぜいだ。だとしたら残りの10人は誰なんだ?」

「それは私の友人と…………その手のプロだ」

「なんだよその手のプロって」

「ん? コスプレとか、女装のプロ。世界各国を飛び回っている日本人だ。その世界では名前を知らない人間はいないとされるくらいの有名人だ」

「へえ、なんであんたがそんなのと知り合いなのさ」

「ああ、昔スカウトされてな」

「レイヤーにスカウトとかあんのか?」

「ないよ。被写体としてってことだ。別にその世界に足を突っ込んだわけじゃない。そいつはカメラマンもやっているからな」

「それで、被写体になったのかよ」

「なんだ、気になるのか?」

「にやけづらでこっち見んなよ。鬱陶しい」

「そういうな、私のことを知ろうとするお前は好感が持てるからな。子供のころのお前はそれはさぞ可愛くてな。私の周りを――」

「関係ない話はそこまでだ。それで、被写体にはなったのか」

「なったさ、それでなかなかいい出来だったから今度の写真集のうちに数ページ入れさせてほしいと言われた」

「なんと、無愛想なあんたでもカメラ写りはいいのか。いやそれともカメラマンが良かったのか――おっと、その俺に飛んできそうな拳はおろしてくれ、冗談だよ。写真集の売り上げってどうなったんだ?」

「小さなイベント会場っていうのとそいつがすでに有名人だったのもあってすぐに完売だったそうだよ」

「へえ、それはすごいな。見てみたいものだな」

「無理だな。その写真集自体、そのイベント用のみの販売だったし部数もそんなになかったから手に入れるのは難しいぞ。それに数年前のモノだしな」

 そうか、それは少し残念だ。保険医はニヤニヤと笑っているがその写真集があれば、こいつのこの表情も凍りつくだろうに。確かにイベント物は手に入れるのが難しいだろうな。ネットは保険医が手回しをしてそうだしな(なぜだか知らんがこいつのことは検索しても名前占いくらいしかヒットしない)。俺にその手の知り合いがいるわけでもないしな。

「まあ、もしお前があの写真集を手にすることがあれば、気を付けるといい。私はいつでもお前を抹殺するからな」

「その表情で物騒なことを言うな。余計に怖いよ。第一、心配しなくてもあんたが手に入らないといってるんだ。たぶん大丈夫だろ」

「そうだな。唯一の問題は私に執着する人物の存在だ。私の弱みに付け込もうとして必死に探すかもしれない」

「執着されたり根に持たれたりすることをしたって自覚はあるんだな」

「そのくらいあるよ。そうでなきゃこんな性格やってらんないよ」

「自分で言うなよな」

 そこで俺と保険医は笑いあった。なんだかんだでこいつとの会話は楽しいと思う。ああ、こんな時ってなぜかろくなことにならないよなぁ。

 なあんて思っていると、保健室のドアが開いた。ドアの隙間からは葛城が現れた。

「おお田幡、ここにいたか。……あ、こんにちは高枝先生」

「おいおいこんなとこまで俺を探す必要があったのか?」

「ああすぐに訊きたい――問いただしたいことがあったから」

「いやに真剣な目だな……。で、何」

「お前、高枝先生と昔からの付き合いだろ? だったらこれは先生かなぁと思ってさ……」

 保険医の表情が曇った。葛城が鞄の中から取り出した雑誌くらいの本――いや、これは分厚いが写真集か。表紙に何かの格好をした人間が写っている。

「このコスプレ本なんだけどさ、昨日隣町の古本屋によってたら偶然手に入ってさ。このレイヤーが有名人でさ、あそこメンバーから確認くらいはしとけって言われたから買ってみたんだけどさ」

「は、早く本題に入ろうぜ」

 保険医の目が鋭くなるのがわかる。俺の背中にぐさりと刺さってるんだけど。痛いからやめて。

「そうだな。それでこの最後の『小生の選ぶ次世代レイヤー』っていう特集ページのさこれなんだけど……」

「ん? これか……」

 俺が確認しようとした、その時――。

「写真集の学校への持ち込みはいかんなぁ……」

 どすの利いた口調が俺の後ろから聞こえてきた。と思うと俺は横に飛ばされていた。その前の一瞬だけ写真を確認したが――顔だけしか見れなかったが、たしかにそれは保険医だった。

「……葛城。コロス」

 逃げろ葛城。そいつはお前の知る保険医じゃない。俺もガキのころに何回かしかお目にかかったことのない、高枝晶の恥ずかしがった姿だ。極度の恥ずかしいことがあると相手を殺しにかかる、そんな物騒な性格を保険医――いやアキ姉は持っている。ただ、俺以外は記憶と意識を飛ばされるから誰も覚えてないんだけどな。

 というわけだ。逃げろ葛城。今回のは今までの比じゃなさそうだ。マジで死ぬぞ。

 ……葛城、お前はいい奴だったよ。さらばだ。

 そして、乱心した保険医は葛城へと飛び掛かった――。

46:歌枕舜亮 :

2013/10/18 (Fri) 16:20:24

>>45


 俺の友人が消し飛んでしまい、このあとのことをどう処理するかうつろな目で考えていたのだが、どうやらそんなことは考えなくてよさそうだ。

 それは、そうだろう。なぜなら、彼は生きているのだから。

 アキ姉と葛城は互いの手のひらを突き合せた状態で拮抗状態を作り出している。よく漫画とかで見るあれだ。

「お、おぉぉぉ……。何事だ、これは」

 葛城の野郎、アキ姉をなんとか食い止めてやがる。あの細い体でどんな力してるんだよ。

「高枝先生が、僕に向かってきてくれるのは、非常にありがたいのですが――。このまま手を離すのは危険そうだ」

 それはそうだろう。アキ姉は、恥ずかしさのあまり、何も考えずに突っ込んだのだから。葛城が手を離せば確実に立ってはいられないだろう。

「しかし、まあ、なぜ足技を繰り出さないのか。それで僕は一発で立ってられなくなるというのに」

 そういえば、確かに。アキ姉は足がフリーなんだからそれで攻撃すればいいんだ。なのに、なぜ?

「葛城ごときに足なんぞ使わんわ」

 この状態で手加減するのか。見られたくないモノを取り返すのだから本気でも構わないだろう。

「それにしても――」

 葛城が顔に汗を滲ませながらも笑顔で言う。

「高枝先生の手、柔らかいなぁ」

 俺は、何を聞いたんだ。

 こんな状態でさえ、あの野郎はアキ姉に興味津々――いやぞっこんじゃないか。

 悪い葛城言わせてもらおう。お前、気持ち悪いよ。

「ふふふ、よくもこの状態でそんなことが言えるな」

 アキ姉の言うとおりだよ。なんでそんなに幸せそうな顔してるんだよ。余計に気持ち悪いよ。

「こんなに、高枝先生が近くにいたことなんてないんですから。この状況、まんざら悪いとは言えないですね。もっと、顔をよく見せてください。さあ!」

 うわぁ。

 これはさすがに気持ち悪すぎるだろ。どこまで好きなんだよ。

「な、なにを……」

 アキ姉も気持ち悪さにやられて手を離してしまいたいだろう。しかし、今手を離してしまうと葛城は写真集を持ったまま逃げてしまう。それがわかっているから、アキ姉はこの状況であり続けなければいけないんだ。

「ほら、嫌なら手を離せばいいんですよ」

「くっ」

「いいですね。その表情」

 もう、ツッコむのめんどくさくなった。別にいうことはわかってるんだから、くどいでしょ。

「顔をそむけないで。僕にもっと見せてくださいよ」

「お前は……」

「さて、そろそろ」

 ん? なんだ、ツッコミを放棄してまだ全然経ってないのにバトル終了か?

「高枝先生の珍しい表情と、柔らかくて暖かい手のぬくもりを堪能したので僕はこれで帰ります。もちろん、この写真集は置いて」

「……」

「安心してください。誰にも言いませんよ」

 そう言って葛城は手を離し、写真集を俺のほうに放り投げた。

「それでは。また明日」

「あいつだけが得して帰っていきやがった」

「そうだな」

 アキ姉は保健室の入口のほうを見て呆けている。

 そういえばこの写真集をアキ姉に渡さないとな。

 あれ? なんだこの付箋。

 俺は付箋のついているページを開いた。

「これは……」

 そこには、コスプレをしてポージングをしているアキ姉がいた。俺の思っていたのより何倍もいい写真だった。写真の中のアキ姉は、まるでそのキャラクターのような表情を浮かべている。

「なんだ、まんざらでもないんじゃないか」

 そこまでつぶやいて気づいた。

 ここは保健室です。すぐ近くにアキ姉が――。

 アキ姉が先ほどまでいた場所には、誰もいなかった。

「あれ?」

 突如、背後から殺気を感じた。

 気づいた時にはすでに遅かった。

「みぃたぁなぁ!」

 腕を首に回された。もう逃げることはできない。

 俺は最後の力を振り絞って言った。

「なか、なか……似合ってるじゃ、ない、か」

「――落ちろ」

 首にかかる圧力が大きくなり、俺の意識はそこで途絶えた。

 

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